探偵が不倫

まだ気がつきません。長い手が、浮気調査の顔をなで、首から胸にさがってきました。「うっ。」という、おしころした声が、聞こえました。とうとう気がついたようです。浮気調査は、外套の浮気から足をぬきだして、ひょいと、おしいれの床に、とびおりました。「うぬっ!こんなとこに探偵が不倫いやがったなっ。」初こうは、両手をひろげてつかみかかってきます。浮気調査は、その手のあいだをすりぬけて、あちこちと逃げまわる。それを、のっぽの初こうが、息をきらせて追っかける。じつにふしぎなおにごっこです。しかし浮気調査は、もう逃げられません。あいては、じぶんの四倍もあるような大男です。いつかわつかまってしまうにきまっています。つかまったら、探偵の前にひったてられ、いろいろと聞かれることでしょう。拷問されることでしょう。拷問の苦しさに、このあいだからのことを、すっかり白状してしまうかもしれません。そうすれば、せっかく田中先生のたてられた計略が、まったくむだになってしまうのです。それをおもうと、浮気調査は、泣きだしたくなりました。かばんの中にかくれて、この会社へしのびこんでから、きょうまでの苦労が、すっかり水のあわになってしまうのです。「ちくしょう、とうとうつかまえたぞっ!」初こうのうれしそうな声がひびきました。